
年金制度改正法成立!会社の社会保険料負担はどうなる?
人事労務関係では、毎年5月半ばから、「住民税特別徴収税額」の給与データへの登録に幕を開け、「労働保険年度更新」「社会保険の定時決定(算定基礎届)」という流れで定例の繁忙期に入ります。
日ごとに気温が上昇し、温度も高くなる中、ご担当者の疲労はピークに近づいているのではないでしょうか?
さて、令和7年6月13日に「年金制度改正法」が成立しました。
この改正は、これから中小企業を取り巻く環境にも大きく変わってくる内容ですので、今回のテーマに取り上げました。
※本記事は令和7年6月25日現在の内容で記載しております。
注目点
- 注目すべきは、従業員が50人以下(厚生年金保険の被保険者数)の企業の「社会保険の加入範囲が広がる」という点です。
- つまり、これまで加入の対象ではなかったパートタイマー等の短時間労働者の方も社会保険加入の対象になってきます。
今回はこの改正のポイントと経営への影響を以下にわかりやすく整理してみました。
改正のポイント:サクっと解説!
- パートタイマー等の短時間労働者の社会保険加入が段々と進む!
令和9年10月~
現在、従業員数が51人以上(厚生年金の被保険者数)の企業等では、週20時間以上勤務で月収8.8万円以上の方が一定の要件を満たす場合には社会保険の加入対象となっていますが、段階的にこの企業規模の条件が引き下げられて行き、収入要件もなくなります。
~いわゆる年収106万円の壁~
最終的に、令和17年10月からは、この従業員数が1人のみでも対象になります。
- 常時5人以上の個人事業所への適用範囲の拡大も実施される。
令和11年10月~(経過措置あり)
農業・林業・漁業・宿泊業・飲食サービス業等の現行の適用除外業種が対象となります。
※既に存在している事業は、当分の間、対象外になる予定です。
- 年齢受給世代の働きやすさがアップ
令和8年4月~
働きながら在職老齢年金を受給する場合、今まで年金額が減額されていた方は、これまでより手取り年金額が多くなる可能性があります。
支給停止調整額が51万円→62万円に引き上げ
- 高所得者の厚生年金保険料も変わる
令和9年9月~
報酬月額635,000円以上(現行最高等級:32等級/標準報酬月額65万円)の方の厚生年金保険料が、令和11年9月まで3年間で毎年1等級ずつ最高等級が増え、該当する等級に応じた保険料となります。
令和9年9月:報酬月額665,000円以上は同じ保険料(33等級/標準報酬月額68万円)
令和10年9月:報酬月額695,000円以上は同じ保険料(34等級/標準報酬月額71万円)
令和11年9月:報酬月額730,000円以上は同じ保険料(35等級/標準報酬月額75万円)
※増加した厚生年金保険料は年金額に反映されます。
- 遺族年金の男女差がなくなる
令和10年4月~
これまでは男性配偶者だけが一部について対象外でしたが、今後は最終的に男女問わず同じ扱いになり、「60歳未満の5年有期年金(配慮措置や女性配偶者の経過措置あり)および配偶者死亡分割の導入」や「子供の遺族基礎年金の受給要件の緩和」等が行われます。
- 子育て世帯に嬉しい加算も!
令和10年4月~
遺族基礎年金や障害基礎年金受給者への子の加算が手厚くなります。
また、老齢基礎年金や障害厚生年金・遺族厚生年金も子の加算の対象となります。
併給調整もあり、受給できる年金により要件が異なります。
- IDeCo(個人型確定拠出年金)
一定の要件を満たした場合、加入上限が65歳から70歳になる予定です。
※法律公布の日から3年以内に実施
経営者として特に気になるポイントはここ!
- 社会保険の対象者が増える=会社の負担も増える
パートタイマー等の短時間労働者が健康保険・厚生年金保険に加入することで、会社が保険料の半分を負担することになりますので、法定福利費の総額が増えます。
※対象人数によっては、年間数十万円から数百万円規模の費用負担増も考えられます。
- 固定費が増えると利益が圧迫される懸念あり
法定福利費の負担が増えると、事業の資金繰りに影響し、今後の設備投資やIT導入、人材育成に手が回らなくなる可能性があります。
※特に利益率が低い業種や資金繰りの厳しい企業では注意が必要です。
- 事務手続きが増える、人材の確保も課題に
社会保険への切替対応や給与計算の複雑化等で、バックヤード業務が増えます。
人材募集や定着への影響について考えると微妙なところがあります。
※社内リソースで対応しきれない場合、早目に社労士等への外部委託も視野に入れた方が良い場合があります。
- 短時間労働者の給与の「手取り金額」の減少について、国の軽減策あり
健康保険の被扶養者や配偶者の最3号被保険者になっている方については、新たに社会保険料負担が発生するので、現行の権限措置の改廃等を含めてどうなるか非常に気になるところです。
一方で、国民健康保険と国民年金の加入者(第1号被保険者)として保険料を負担している方の場合は、ケースバイケースで加入前後の正味負担の増減は異なります。
改正法による短時間労働者への負担軽減策
「標準報酬月額12.6万円以下の短時間労働者が負担する健康保険と厚生年金保険の保険料」の一部を事業主が追加負担する場合は、「3年間を上限に追加負担分を国が全額負担する制度(3年目は軽減割合を半減)」が導入されることになっています。
※法定の事業主の半分負担の部分は軽減されません。
標準報酬月額 | 8.8万円 | 9.8万円 | 10.4万円 | 11万円 | 11.8万円 | 12.6万円 | 13.4万円 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
被保険者負担割合 | 0.25 | 0.3 | 0.36 | 0.41 | 0.45 | 0.48 | 0.5 |
事業主負担割合 | 0.75 | 0.7 | 0.64 | 0.59 | 0.55 | 0.52 | 0.5 |
追加負担割合 | 0.25 | 0.2 | 0.14 | 0.09 | 0.05 | 0.02 | 0 |
- 社会保険加入の場合、メリットもある
健康保険や厚生年金保険に加入すると、出産手当金や傷病手当金までカバーされる可能性が出てくるうえに、厚生年金保険の保険料は将来の年金額等に反映されます。
まとめ
今回の改正により、従業員数50人以下の企業等では、社会保険料負担に伴う資金繰り等への影響が懸念されます。
最低賃金額も毎年上昇している背景で、「短時間労働者の雇用管理を今後どのように行っていくか」を検討する必要性が出てきます。デメリットばかりではなく、長期的には「短時間労働者の処遇改善による雇用の安定」につながることも期待できます。
社会保険適用拡大の規模別適用時期
適用時期 | 従業員規模 | ※適用までの期間 |
---|---|---|
令和9年10月以降 | 36人~50人 | 2年3か月 |
令和11年10月以降 | 21~35人 | 4年3か月 |
令和14年10月以降 | 11人~20人 | 7年3か月 |
令和17年10月以降 | 1~10人 | 10年3か月 |